但馬屋老舗
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ミヤケマイ 渡邉美和 対談

2015年4月24日、大分県立美術館OPAMがオープンしました。出展作家である美術家ミヤケマイさんは竹田に滞在しながら創作に励み、当舗の職人・スタッフにとっては今では家族のような存在です。よきご縁に恵まれ、ミヤケマイさんと当舗の職人との共同制作により生まれた新しいカタチの和菓子「MOTHER OF MERCY」と「さいコロがし」。それぞれの立場でお聞きした完成までのエピソードをお届けいたします。

取材編集:但馬屋老舗HP制作チーム

取材撮影:ELEMENT 久保 貴史 / 商品撮影:阿部 良寛

以下、敬称略[ 美術家 ミヤケマイ:ミヤケ / 和菓子職人 渡邉美和:渡邉 ]

きっかけと始まりをおしえてください。

ミヤケ:

OPAM側から「ミュージアムショップのグッズを作って欲しい」というお話を頂いて、せっかくなので地場産業と組んで作ってはどうかご提案をしたところ同じように考えていらっしゃって。タイミングよく美術館とご縁のあった但馬屋老舗の板井社長をご紹介頂きました。ただ、どのようなものにするかは現地に伺って色んなものを見せてもらって決めようと思っていました。板井社長からは娘さんが和菓子職人というお話も聞き、まずは竹田市の店舗へお伺いして始まりました。

渡邉:

来られてまずは商品のラインナップを見てもらいました。初めてお会いした翌日には既に「こんなのどう?こんなのどう?」と、もういくつかのアイデアをマイさんが持っていて、その中からカタチになった感じですよね!

ミヤケ:

そうそう、始めのアイディアどおりに出来ました。

初対面でかなり具体的なところまでお話が進んだのですか?

ミヤケ:

今までの経験上、自分がもの作りをするとき困るのは、時間が無いということだと思ったので、私は作り手になるべく時間をあげられることを配慮しました。試行錯誤から本生産まで時間がかかることを考えると、私のところはなるべく前倒して宿題をすませ、お会いしたらすぐにパスできるようにしておこうと思って用意していました。

渡邉:

初対面の時には、今まで和菓子では考えたことの無かった提案が沢山あり驚きまし た。次に会った時には、試作はここまでと決まり、早かったですね。

ミヤケマイ

最初から2種類のお菓子の構想があったのですか?

ミヤケ:

最初は7種類くらいあったのですが、但馬屋老舗さんが初めてのコラボレーションになるので、一気に全部は難しいことや、現実的にできるもの、生産体制諸々考慮した上で社長からその中の2種類を選んで頂きました。

どちらのお菓子を最初にとりかかったのですか?

ミヤケ&渡邉:

ほぼ同時ですね!両方、同時に進めて、それぞれに違うところで苦戦しましたね。

ミヤケマイ 渡邉美和 対談

それでは「MOTHER OF MERCY」からお尋ねしたいのですが、こちらは木型から作られたそうですね。木型屋はミヤケさんのご紹介ですか?

渡邉:

もともと当舗が頼んでいる木型屋です。

京都まで行かれたとお聞きしましたが。

ミヤケ:

職人さんとのコミュニケーションっていうのは、図面だけでは絶対うまくいかないので、納期のご相談もかね直接お会いしたほうがいいと思って。以前、高松の木型屋さんと仕事をした経験がありましたので作業の見通しが推測できたのです。ちょうど京都に行く用事とあわせて、職人さんと細かく話をしながらその場でデザイン画を描き直したりしてお願いしました。

デザイン画を渡して木型ができるまでどのくらいであがってくるのですか?

渡邉:

約1ヶ月くらいです。

ミヤケ:

今回は急いでもらいました。通常の型にもよりますがは2ヶ月~3ヶ月くらいかと。

これまでと違うような木型で模様も細かいですね。職人としていかがでしたか?

渡邉:

そうですね、まず洋風なもののレリーフ、レースのレリーフや、マリアさまや十字架のよう なレリーフは扱ったことがなかったので、すごく新鮮でした。そして何よりデザインがとても細かいので、頭では型が綺麗に出るだろうと思っていても、実際に打ってみたら、顔がぼやけたり、細かいところが出にくく難しかったです。でもベテランの先輩職人に、生地の調整のアドバイスを頂いたり四苦八苦しながら仕上げました。たいへんでしたが、こんな綺麗な木型は見たことがありませんでした。

木型職人さんは、きっと綺麗に出るということがわかった加減で彫っているんですよね。

ミヤケ:

その道何十年のベテランですので!

逆に、和菓子職人の腕を試されるような面もありますよね。

渡邉:

それはありますね。とても勉強になりました。

ミヤケ:

京都って意外にハイカラな木型を作っているんですよ。木型の雛形(スケッチ)本があるんですけれど、見せて頂いたら案の定、クリスマスなどあったので、ここなら大丈夫と思ってお願いしました。

渡邉:

たぶんミヤケさんとお話して先方の職人魂に火がついたんですね!私も訪ねたことがありますが、雛形本は見せてもらった事がなかったです!

ミヤケ:

女将さんが、亡くなったご主人が描きためたものを見せてくれました。

そうして完成された落雁ですが、香りも素材も和菓子屋にとっていかがでしたか。

渡邉:

まずない発想でした。ミルクの味と香り、さらにミントというのは斬新というべきか、新たに開けたような感覚でした。マイさんは、こういう味を食べたことはあったんですか?

ミヤケ:

ないです!ただ、粉ミルクに落雁っぽいイメージが浮かびました。まずコンセプトとカタチから入っていったのですが、竹田はキリスト教文化と和の文化が突出せずに混じっているところが面白いと思いました。落雁は日持ちするし、型も色々できることから、白い落雁でマリア像って綺麗なんじゃないかって思ったんです。マリアから連想するとミルク味じゃないか。また、西洋といえばミルクミントもいいかなって思いました。それから、落雁は食感から夏はあまり食べないようなイメージがあって、もしミルクミント味があったら、冷たい麦茶や紅茶、ウーロン茶などと一緒でもいいし、もちろん暖かい紅茶やコーヒーでも。お煎茶じゃないものにもミルク味だったらあうと考えて、ご提案させて頂きました。

作家として味の想像はできていたのですか?

ミヤケ:

あうとは思っていましたが、但馬屋老舗さんがミルクを選ぶときに、ちょっとしょっぱく感じるものと、粉ミルクっぽいものと2種類用意してくださっていました。それでちょっと しょっぱく感じる方が、塩大福みたいな感じで面白いなぁと思って。これは自分では想定外だったんです。甘いだけじゃなくていいかもしれない。素材のおかげで、もうひと ひねり考えられました。"出会いの妙"で生まれた味でした。

和菓子屋としてはいかがでしたか?

渡邉:

ミルク味とミントはまずない組み合わせで職人の間でも想像が出来ませんでした。もちろんミルクも扱ったことがありませんでした。落雁に油分が入ることによっていつもの落雁と違って壊れやすいんです。砂糖と砂糖の間に油分が入ると崩れやすくなるので、それをどう繋ぎの調整で型がしっかりするか、何度も細かな試行錯誤がありました。でも、マリアさまの形と、食べたときのミルクの味と落雁の食感が本当にあっていて、とても美味しくてビックリしました。

MOTHER OF MERCY

"聖母マリア"は優しいミルク味。"十字架"はミント風味。

「さいイコロがし」の方はいかがでしたか?

渡邉:

サイコロは、卵白とお砂糖と寒天でできているもので、生地自体は最初は柔らかいんですね。それを一つの四角い型に流して、ある程度固まった時に、1.5cm角サイズの専用カッターで切った後、乾燥させるんです。乾燥後に、ひとつひとつ、サイコロの目 を手描きします。

ミヤケ:

すごく気が遠くなる作業ですよね。

渡邉:

はい。目の場所があるので間違えないように描いていきます。おかげでサイコロ職人が生まれました!

ミヤケ:

お菓子そのものは西洋のメレンゲみたいですよね。卵の白身や寒天はコレステロールが低くてヘルシーで女性向きなお菓子ですよね。

サイコロの発想はどこからきたのですか?

ミヤケ:

但馬屋老舗さんの「岡の雪」を見た時に、建材のような印象があって、コンクリートや発砲スチロールみたいな感じでこれは面白いなぁと思ったので、お菓子ではないものの形に作れないかなぁって思っていました。お菓子の色も白で「サイコロだったら転がし て遊びながら食べると楽しいかな?」って思ったことで生まれました。

それで双六なんですね。アーティストをテーマに選んだのは?

ミヤケ:

よく頂く質問に「アーティストの人生ってどういうものなんですか?どうやってなるんですか?」と聞かれることが多くて。私達(アーティスト)の実態がわからないみたいで、どんな人生なのか良く尋ねられるのですが上手くいつも答えられないので、じゃあ、せっかく美術館だし、皆さんにアーティストの人生を簡単に疑似体験してもらえるゲームを作ってみたいと思いました。

渡邉:

内容がすごく面白いですよね。アーティストあるある。

さいコロがし

改めて、それぞれにどのようなご苦労がありましたか?

渡邉:

サイコロは、着色の問題と、もろいのでカッティングを始めは手作業でやっていて、量産体制にもっていくのに苦労しました。落雁は、前述の通り打つのがたいへんだったのですが、香り、味、大きさの調整にも苦労しましたし、どれくらいの厚みが食べやすいとかも細かい調整が要りました。薄すぎてもダメだし、厚すぎても食べずらいし。また木型が3つしかないので、1回にできるのが3個。その繰り返しなので生産数が限られます。

ミヤケ:

木型も増やして2台で作られるようにしたんですよね。落雁は人の手でしかできないので限界がある。

渡邉:

そうなんです。それから最初、落雁の方は置いておくと外気の影響で割れてしまって泣きました。いまは問題もクリアして大丈夫です!サイコロ菓子は割れなどの心配はありません。そうしてどちらも日持ちは2ヶ月です。

ミヤケ:

ショップやお土産向きですね。

渡邉美和

完成までどのくらいの時間がかかりましたか?

渡邉:

OPAM開館日が決まってからなので、逆算して一年半くらいで仕上げなくてはならず、時間がなく、けっこうギリギリでした。

ミヤケ:

レセプションのお土産に決まったと伺って嬉しい反面、細かな手仕事を知っているだけに美和さん達が心配でもありました。

ところで、どちらも素敵でユニークなパッケージですね。

ミヤケ:

アートディレクションとコンセプトを私が担当し、制作は今回2チームに依頼しました。それぞれかぶらないように、カラースキームも変えて、調整させて頂きました。「MOTHER OF MERCY」をお願いした藤森泰司アトリエさんはパッケージをするのが初めてで、日頃は家具など大きなものをデザインされている方なんですけれども、パッ ケージデザインも向いているんじゃないかしらって思っていてお声かけしたんです。それから、藤森さんは大人っぽい、シックでエレガントな作風なので、カラースキームは 秋冬のイメージがあったこともあり、バテレン系の雰囲気、竹田の石畳、ステンドグラス、キリスト教にちなんだ金・銀など使って欲しいとお願いしました。

MOTHER OF MERCY MOTHER OF MERCY MOTHER OF MERCY

パッケージの色が2色あるのですね。

ミヤケ:

石畳みのように繋げられるので、1色だけじゃなくて模様みたいに敷き詰めて見せられるとより綺麗だと感じ2色にしました。ジグソーパズルのようでもあるので、できれば広い平面で見せられるようにしたいです。

「さいイコロがし」は、対照的ですね。

ミヤケ:

はい。お願いしたドリルデザインさんは、賢く、ポップな部分が得意なので、こちらのカラースキームは春夏で、遊び感覚があり大人も子供も楽しめる、親近感のあるような面白いものを作ってくださると思っていました。

渡邉:

そうそう「さいイコロがし」のパッケージはすごく機能的に出来ているんですよ。コマも。綺麗に収まっているし。

ミヤケ:

ドリルデザインさんはそういうのが得意で、ダイスが食べ物なので、転がす専用のお皿まで考慮されたパッケージです。表もサイコロの目をデザイン化したもので星座のようになっていて素敵です。

最後に振り返ってみて、共同制作の現場はいかがでしたか? それぞれの立場でお尋ねします。

渡邉:

当舗にはベテランの職人と頼もしいスタッフがいるので、難題が出た時には必ず相談して解決作の糸口を見つけ、力を貸してもらいながら皆で連携し完成させました。いまは通常業務に組み込んで製作しています。

ミヤケ:

今までやったことのないことを職人さんにお願いするのってすごく難しいことなんです。いいものをきちんと作るトレーニングを積んでいると大抵は「出来ません」って回答 が戻ってくることが多く、それをどう理解して作って頂けるかがたいへんなんです。ですが、美和さんは「こういうのを作りたいです」って言ったら「わかりました。やってみま す!」って言って、いつも持ち帰ってくれる。入口で「それはできないと思う」とは言わない。やったことがなくても、できるところからやっていこうっていう意志・気迫が感じら れて私はこの人達なら大丈夫、安心して任せられるって思いました。

渡邉:

私にない発想でのお菓子作りが出来たことはとても大きな経験になりました。こんな発想で!こんな切り口で?っていう、私にないものを感じとれたので「やってみたい!」 と。ただそれだけでした。ワクワクして楽しかったです。ありがとうございました。

-- 2015.4.22 OPAM ミヤケマイ氏 展示会場にて --

■お菓子デザイン・コンセプト・アートディレクション&文章・絵・字:ミヤケマイ
www.maimiyake.com


■お菓子製造:但馬屋老舗/西宮 浩子・渡邉 美和


■パッケージデザイン 「MOTHER OF MERCY」:藤森泰司アトリエ www.taiji-fujimori.combr
「さいイコロがし」:ドリルデザイン www.drill-design.com

ミヤケ マイ

日本の伝統的な美術の繊細な奥深さに独自のエスプリを加え、見る者に物事の本質を問う作品を制作。多彩な表現方法を用いてOPAM、水戸芸術館現代美術ギャラリー、Shanghai Duolun Museum of Modern-Art、銀座メゾンエルメスのウィンドウ、慶應大日吉キャンパス来往舎ギャラリーなど、国内外を問わず活動を続ける。2008年パリ国立美術大学大学院に留学。『膜迷路』(羽鳥書店/2012年)など3冊の作品集がある。

ミヤケマイ 美術家

渡邉 美和

当舗六代目の長女として竹田市に生まれる。京都橘女子大学にて池上惇、上原恵美、両教授に文化政策学を学んだのち但馬屋老舗入社。和菓子技術を伯母であり当舗専務の西宮浩子に師事。今回、専務の監修と職人のサポートのもと商品化を任される。世代を超えて「竹田」を感じてもらえる和菓子作りを目指している。2011年より竹田アートカルチャーに毎年参加。

渡邉美和 和菓子職人